ハームリダクションとは?
先日、街中で少し不思議な光景を見ました。
キッチンカーのような車が並ぶ一角で、ひときわ静かな車がありました。
ケバブ屋の隣だったので、最初は同じような屋台だと思いました。
でも近づくと、車体に注射器のマークが書かれていました。
注射器を売る? 一瞬そう思いました。
けれどあとで調べてみると、あの車は注射器を販売していたわけではありませんでした。
使い終わった針を安全に回収し、希望者に新しいものを低価格で販売する拠点だったのです。
それはハームリダクション(Harm Reduction)という公衆衛生活動の一環で、
薬物使用を「やめさせる」よりも、感染症や過剰摂取といった危害を最小限に抑えることを目的にしています。
無料ではない理由
調べてみると、こうしたプログラムの中には無料交換ではなく有料制を採用している場所も多いようです。
理由は単純なコストの問題だけではなく、適切な利用を促すためでもあるとのこと。
無料配布だと不正転売や過剰な持ち帰りが起きやすく、管理も難しい。
少額でも料金を設定することで、必要な人が必要な分だけ受け取る流れを保てるそうです。
スタッフにとっても、針の追跡や安全管理がしやすくなるという。
この有料システムは、支援と自立のあいだを探る“現実的な折り合い”のように感じました。
単なる慈善ではなく、公衆衛生の中での制度的な一部分。
支援される側にも主体性が残る形だといえます。
欧州の取り組みと日本の現状
こうした針交換プログラムは、欧州ではすでに30年以上前から続いているそうです。
カナダやオランダでは行政が運営し、感染症の拡大を抑えた実績もあります。
一方で日本では法整備が追いつかず、「支援か容認か」という議論の中で止まっているようです。
街を守る仕組みとして

この考え方のポイントは、使用者だけでなく街全体を守るという視点にあります。
感染症にかかった依存者との接触が減れば、他の人への感染も防げる。
拡大を抑えれば医療費の負担も減る。
路上に落ちた注射器によるケガも防げるし、
救急や警察の出動が減れば、そのぶん他の公共サービスにリソースを回せます。
つまりハームリダクションは「ただのボランティア」ではなく、
社会のコストを現実的に減らすための公衆衛生政策でもあります。
完璧な断絶を求めるのではなく、
現実的な危害の最小化を選ぶという、一種の社会的合意です。
旅の学びとして感じたこと
こうした仕組みを知るまでは、薬物問題なんて自分とは関係ないと思っていました。
でも、善悪をいったん棚に上げて、
「全体の公衆衛生を守る」という視点で見れば、
これは確かに合理的な方法のひとつなのかもしれません。
理想論で完璧を目指すより、少しでも“ましな現実”を積み重ねる方法。
その発想が、ここ欧州ドイツの日常風景にありました。


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